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2016年05月27日

奄美大島での同時進行する矛盾。


奄美大島は総土地面積の84%が森林に覆われている緑の島である。かつて、シイ類を中心とした広葉樹の原生林が広がっていたが、昭和10年ころから線路の枕木用として大量の伐採が始まり「東洋のガラパゴス」と言われる貴重な生態系を育む原生林は30%まで落ち込こんでいる。その後外来種の松が持ち込まれたが、現在では新緑の森の中に赤茶けた木が点在しているのが目を引く、松の立ち枯れが始まっているのだ。
36年間山に入り続けて動植物を観察している常田守さんによれば「心配することはない、奄美が自分の力で森の再生を始めたのだ、100年1000年かけて奄美は自然の力でその姿を取り戻すだろう」と、その言葉を聞き、私たちは壮大なスケールの時間軸のほんの一点なのだと改めて感じた。破壊と再生が進むせめぎあいの中で人間の葛藤が続いている。このまま乱開発に依存した経済の果て、自滅への帰路に立たされている、そんな危機感を覚えざるを得なかった。

奄美大島の中央には国道58号線が走っている。南北をまたぐ国道の所々はトンネルになっており、いかにこの島が切り立った険峻な山で囲まれているのかがわかる。奄美市役所が置かれている旧名瀬市の一帯も平地が少なく、新興の商業地域や港湾の多くは埋め立てによる敷地造成に頼った都市計画が進んでいる。地元の人によればチリ地震の時には膝まで津波が押し寄せてきて冠水したとも聞いた。
その国道58号線を北部にある名瀬から南下し、陸上自衛隊基地の候補地があると言われている節子(せっこ)集落へ向かう途中驚くべき光景を目にした。国道のすぐ脇の山が丸ごと削られていたのだ。噂には聞いていたが、辺野古新基地の埋め立てに使う「岩ズリ」と呼ばれる埋め立て用の土砂を搬出している最中であった。新緑の山と、はぎ取られた土色のコントラストが痛々しかった。
この広大なむき出しの土壌からは、雨が降るたびに大量の土砂が海へ流れ込み、奄美の海の生態系を破壊しているという。土石を受け止める鎮静地は溢れ、海域への流出の報告が度々寄せられている。今年4月には砕石地の山が崩れ、車道に土砂が押し寄せた結果、集落が分断されてしまうなどの事故も起こっている。地元紙「南海日日新聞」がこの岩ズリの一連問題点の取り上げて記事にしたところ、部数が減ってしまったという。その記者は勇気をもって記事を書いたのだが、その後の続報がないところを見ると、地元からの圧力は相当なものなのだろうと想像する。この岩ズリの件が辺野古の全国的な報道の陰に隠れているのは、報じる動きが少ないことによるのだろう。また、これらの砕石地の岩ズリが兄弟島である沖縄に運ばれることをようやく知り始めた住民も多く、これまで続いてきた奄美と沖縄の関係を加害者と被害者の立場に変えてしまうことを懸念する声も起き始めている。
現在でも休むことなしに岩ズリはダンプで運ばれ、集積場に積み上げられており、いつでも辺野古の海を埋め立てる用意が進んでいる。日本政府の沖縄に対する思惑は、フロートが撤去されようが、奄美での搬出作業が止まっていない現実が証明している。

辺野古の海、大浦湾は沖縄県内で残された数少ない自然湾である。綺麗なブルーの海とサンゴのイメージがある沖縄だが、沖縄本島の北部より下のほとんどが人口湾に変わってしまっている。残されたサンゴの海を耐用年数200年のV字型滑走路を併せ持つ新型の軍事基地に作り替えるため、必要としている岩ズリは南日本の各地から運ばれてくるのだ。空前絶後の総量は2100万㎥、九州・瀬戸内の7地区13箇所の現地から見れば、西日本の自然を壊し山を削り持ち去ろうとしているように感じている。また埋め立てに伴ない発生するであろう懸念の一つに生態系の汚染がある、様々な微生物や小動物・種子などを含む土壌は沖縄の生態系を変えることにつながるのは明らかである。遠く海を隔てた地域から調達し、海上輸送を行うには1200億円もの国費が必要と試算されており、文字通り海に税金を投じることになる。相互に貴重な生態系を有する山と海を並行破壊するのも二重三重の悲劇が各地へ積み重なる暴挙だが、この海を失うということは沖縄の記憶の文化的な源泉を失うことに等しいのだと思う。問われているのは、奄美・瀬戸内海・沖縄に住む人々の未来への想像力との戦いでもある。

現在奄美大島は世界自然遺産への登録を目指している。ただし、世界遺産登録へは越えなければならないハードルがいくつかある。まずは登録の前段として国立公園化が必要である。今回の計画地域内に民地があり、土地を所有する県内大手企業と用地買収交渉をしなくてはならない状況に陥っている。2016年の世界自然遺産登録が用地買収の困難さを理由に延期されたが、防衛省は2018年の配備を目指している。この二つの時期が近接しつつあるのは客観的な事実であって、最終的には閣議決定が必要になる。
私が奄美大島を訪れて感じたのは自衛隊配備と岩ズリ搬出の問題と世界自然遺産への登録という、相矛盾する課題への腑に落ちない違和感であった。この島では今のところ二つの問題に関して大きな議論は起きていない。しかし、この問題を突き詰めていけば必ず奄美の自然環境へとたどり着く。この二つの問題を島に住む一人一人が考える主体になって行動するところから、成長と成功体験を積み重ねて行く、その過程にあるのだと思っている。現時点での世界自然遺産への登録へ関わっているのは、中央の役人と御用学者の構成の感が否めないとはっきり明言しておく。地元には素晴らしい人材もいるが活躍のチャンスを失っている。重要なのは上から自動的に降ってくる果実やお金ではなくて、下からのボトムアップであろうと、問題意識を共有するたくさんの人に会い口々にそう語ってくれた。陸自配備の住民説明会は未だ開かれていないが、たとえ開かれたとしても防衛省主導の既成事実化の説明会であってはならない。まずは市政が陸自配備と岩ズリの両問題の責任の所在を防衛省に丸投げするのではなく説明責任を果たすところから始まるのだと思う。今必要なのは市民の話し合いの場を行政が作ることである。これらが出発点となり成功体験が積み重ねていければ、奄美の世界自然遺産への登録の道筋は自ずと見えてくる。祖国復帰をいち早く果たした奄美の人々の熱い思いは、99%の住民が署名し熱望した「奄美の奇跡」として語られている。
全ての課題と全ての資源は目の前に明らかになっているのは幸いだ。着実にプロセスを踏めば本物の自然遺産を子々孫々へと残す世界自然遺産登録への動き「奄美の奇跡」が起こる日は近いのであろう、そう思っている。









Posted by Moist Chocolat at 17:01│Comments(0)
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