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2017年08月06日

与那国町長選挙で再び問われる「自立ビジョン」

8月1日から始まった与那国町長選挙は5日間の選挙活動を終え、6日の今日に投開票を迎える。
今回の町長選では、有権者(7月31日現在)が1399人と島外から移住した自衛隊とその家族を中心に、前回より271人増えている。
今回立候補したのは、現職で4期目を狙う外間守吉氏(67)=自民公認、公明推薦=と、前議会議長で新人の糸数健一氏(63)の二人である。
これまで保守系候補に一騎打ちを挑んできた革新の側は「票を取りまとめても、新たに加わる自衛隊員の票を考えると、候補者を擁立しても勝機が見込めない」と町長選は勝てないと諦めがあり、候補者の擁立を断念している。
今回の選挙は「保守分裂」の選挙であって、革新候補に投じてきた有権者達の投票行動と自衛隊票の行方がキャスティングボードを握る。与那国島が「自衛隊城下町」となって以来始めて、民意を問われる選挙に位置付けられる。
前回2014年の選挙では投票率95.48%で、当確票差はわずか47票であった。

現職の外間町長の3期12年で深く分断を引き起こした自衛隊誘致の問題は、昨年の陸上自衛隊与那国駐屯地の発足を持って事実上終了しており、今回の争点ではなくなってしまい、今後の基地の拡大を懸念する住民の声を聞く場にもなっていない。これまで基地建設に反対してきた住民は、推進の先頭に立ってきた両候補に対して、白票や棄権などを検討している人もいるのが事実である。また白票や棄権が増えると当選確率が高まるのが現職の外間候補で、革新支持者に対して白票を投じるよう呼びかけていると聞いた。

革新側は保守分裂のチャンスを活かせず、候補者を擁立できないのは残念だと言う意見が当初は大半を占めていた。しかし、選挙戦に入ってから風向きは大きく変わってきた。「これは保革の戦いではない」「保守を徹底的に分裂させて膿を出させた方がいい」「もう外間町政をこれ以上続けさせてはいけない」と、保革の対立構造よりは建設的に手を組めるチャンスと捉える向きが浸透し始めている。
革新が出ない選挙であらわになった保守の腐敗を白日のもとにさらし一掃することこそが、お互いにとってのチャンスだと、現職打倒に未来を託して糸数候補と革新が手を組む動きが出てきたのは与那国島にとって新しい共闘体制の確立とも言えるだろう。
陸上自衛隊誘致に奔ったこの12年間に、町政をなおざりにしてきたツケが溜まりに溜まって、内部では現職が作り上げた独裁的な町政への批判が高まっている。
対立候補の糸数健一氏は「公正公平に、現町政を変える」ことを訴えて、現職への不満の広がりを背景に支持を集めている。
革新派の議員や4年前の町長選挙を戦った改革会議の崎原正吉議長が、糸数候補の街宣にマイクを持って参加していたのは、これまでなら絶対に見られない光景であった。
苦渋の決断やわだかまりがあったとしても、これは与那国島版の野党共闘の新しい一歩として後世に特筆されるのだろう。そして自民党の錦の御旗が沖縄の離島でも陰ってる、わけても安倍政権への支持率低下と連動していることは伝えなければならないと思う。

政局で見れば継続か刷新かが問われているが、今回の選挙での争点はあくまで「産業振興、観光振興、まちづくり、子育て支援、など」平時より長期的な視野で行なわれるべき行政の施策であった事にあらためて驚く。
今回の保守分裂選挙の実相は、いわば自衛隊配備と虚構の経済発展を旗印に掲げ、共に沖縄県初の自衛隊新基地建設に手を取り合った基地誘致の二人が、与那国島にもたらした停滞の12年は脇に置いて、これからその後の始末を開始すると宣言しているに等しい。
陸自基地は残り、失われた12年の与那国町政は、ここにきてやっと住民自治の振り出しに戻ったと言わざるをえない。選挙結果の何如に関わらず、町民の評価や反応を確認し、あらためて陸自配備のリスクは問われなければならない。石垣島、宮古島、奄美大島のみならず、沖縄全体が米軍から下請けの自衛隊へと急速にシフトしている危険性を最前線の島から浮き彫りにする必要があるからだ。

しかし、ここにきて再浮上したのが、2005年に策定された台湾との航路を結ぶ「与那国・自立ビジョン」である。糸数候補は再びこの自立ビジョンを掲げてきた。
当時、与那国町は台湾に事務所を置きながら粘り強く国境交流特区構想を国へ申請していた。町側はなかなか構想を認めようとしない国と交渉を重ねてきたが、軍事問題と並行し暗礁に乗り上げた与那国島未完のプロジェクトである。
与那国島の活路は台湾との交流以外にはないとの思いは、隣の島、台湾まで111kmの日本最西端に位置する与那国島民にとって望郷に近い悲願なのであり、国境で引き裂かれた与那国島の近代史は衰退の記憶とに完全に重なるのである。
外間町長が2015年に行った施政方針演説では、陸自配備を踏まえ「与那国・自立ビジョン」を見直し、島の骨格を自衛隊基地に合わせて再編するとの施策が発表されたが、自治体運営の上に自衛隊組織を持ってくるもので、地方自治の本旨に反するものであると否定的に捉える意見が多く聞かれる。
外間町長が代表社員を務める海運会社一社に補助金が流れる仕組みを政治利用し続けたために、富と権力の一極集中を招いたこの腐敗の構造を与那国島の島民はよく知っている。
与那国島にとってはまさに海こそが生命線であり、海の道を閉ざすことは与那国島の衰退につながる。そして、海流文明の入り口を閉ざすことが島民のアイデンティティーの根幹に触れたのかもしれない。
そして与那国島は東アジアへ開かれた南向きの玄関口としての役割が最もふさわしい。
「与那国・自立ビジョン」は崖っぷちに立たされた与那国島の希望であったことを、この失われた12年で再確認したということなのだろう。
本日6日の与那国町長選挙の結果は、遅くても21時までには判明することになる。
















Posted by Moist Chocolat at 12:24│Comments(0)
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