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2017年04月06日

浜下りとアカマタ伝説

浜下りは、沖縄県と奄美群島を含む琉球弧の島々で旧暦3月3日に行われる伝統行事です。沖縄本島ではハマウリ、ハマオリ、宮古諸島ではサニツ、八重山諸島ではサニズ、徳之島や奄美大島ではハマウリと呼ばれるようです。

本来は女性だけの行事であったようですが、私が与那国島に来てからはおばあ達から「海に行って足を浸けてきなさいと」常々言われていたので、仕事を終わらせて夕方暗くなってから浜辺に行ってきました。

沖縄本島のような都会での浜下りの様子はよくわからないのですが、最近では与那国島でも家族連れで潮干狩りや海遊びを楽しむようなピクニックに変容していて、賑やかなビーチパーティーの様相を呈しています。
海からの帰り道、そこかしらの家の軒先が煌々と光っていて、人の笑い声や子供達のよく響く声に加えて、炭火と焼肉の香りが、夜風に乗って漂ってきていました。

浜下りの歴史的な経緯はざっと調べていても、その歴史的な真意はよくわかりません。ですが、清浄な浜の白砂をふむことにより、けがれを清め、命の豊穣を願うという民間信仰の祈願の影に、女性に架せられた悲嘆の歴史が横たわっているように感じました。

沖縄の浜下りの起源とも言われる民間伝承を一つ紹介します。

【蛇婿入り】

昔、女性のもとに夜な夜な通う美男子がいました。
二人は愛し合っていましたが、男性は夜にしか女性に会いにきません。

いつしか女性のおなかには男性の子が宿りました。
女性は彼の事を何も知らなかったので、彼がどんな人か確かめようと思い、男性の着物の裾に糸を通した針を刺しました。

夜明け前になると、いつものように男性は帰っていきました。
女性は、裾に付けた糸を追って男性のあとを追いました。

そして着いた場所は・・・洞穴。
その洞穴にいたのは、・・・なんと巨大な蛇!

男性の正体はアカマターだったのです。
(アカマターは方言で蛇の事です。)

愛した男性が実はアカマター(蛇)だった・・。
男性の正体を知った女性は、嘆き悲しみました。

女性は海にいき、海水に浸かり身を清めました。
すると体からたくさんのアカマターの子がジャラジャラ、ジャラジャラと何匹も流れ出たそうです。
女性はもう一度海に入って、潮できれいにみそぎをして、もとのような身体になった。

その日が3月3日だったことから、
旧暦の3月3日は女性の厄除けの行事として「浜下り」が行われるようになったそうです。

私はこの伝承を読んで、誤解を恐れずに言えば、旧暦の3月3日は子堕しと口減しで命を全う出来なかった幼い命への供養の日ではないのかと直感しました。

歴史を紐解くのは、人間の闇に触れるのと同義であるくらい陰惨な不幸が人の数ほど積み重なっていて、暗部のページをめくる作業に似ています。
平時、自然環境が穏やかな時は子供は貴重な労働力になりますが、環境が悪化すると一番弱い立場に立たされてしまう。
島という限られた系に生きるのであればなおさらのことだったと思います。
私たちは飢えから解放された、人類史のほんの一瞬に生を受けているに過ぎず、歴史と伝統を継承する意義を忘れているのではないでしょうか。
その悲嘆の集合意識が伝統行事の一部に埋め込まれていたとしても不思議ではないと思っています。

沖縄ではニライカナイに命を産み出し、共同体を支える豊穣を讃える反面。海に対して畏怖の念と救済を同時に抱いていたのでしょう。終わりなき災厄に翻弄される、あまりにも小さい存在である人間はまた、最後の頼みに信仰を見出していたのだと思います。

あまりに辛い話ですが、全ての命を産み出す龍宮の神々に祈る人たちの物語が隠れているように思います。
海と人が一番近くなる大潮の日。海面から浮かび上がった珊瑚礁のリーフを、地上から海の果てまで続く霊道に見立てたのではないでしょうか。
様々な想い抱えた島々の女性は、可能な限りニライカナイのそばまで歩いていって祈りを捧げたのだと想像しています。

古の時、多忙を極めた女性を家事から解放する浜下りに、ウジュー(重箱)にご馳走を詰めて、女性たちだけで遊ぶ一日はどんなにか楽しかったであろうと思います。
その日、交わされた会話がどのようであったか、今では想像するほかありませんが、辛い話も心開ける癒しの機会であったと思います。

先祖の思いと重ねて現在の自分の足元を確認するのが、常に前へ前へと行き過ぎる人間社会への警告だと思っています。

楽しかった今日の思い出の忘れ形見なのか、波打ち際に小さな赤い島ぞうりがありました。
過去・現在・未来に培われた少女の記憶を呼び覚ます結び目のように、それは凛とした精気を放って語りかけてくるのです。













Posted by Moist Chocolat at 11:04│Comments(0)
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